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2016年12月 4日 (日)

江戸の闇に身を潜む  ~最後の鬼平~

作家・池波正太郎氏が描いた鬼平こと長谷川平蔵宣以(のぶため)
町奉行所とは異なり、放火や重罪の盗賊を取り締まる
火付盗賊改方の長官として実在の旗本。

その人となりや、活躍の経緯は
池波正太郎氏が鬼平犯科帳で縦横に綴っておられます。
勿論、フィクション。
ではあるが、このような人物像であったかと錯覚させるのは
原作者の力量に依るところが大でありましょう。
剛にして柔、世情に詳しく
配下の与力・同心(自分の家臣が火盗改めの役人)たちはもとより、
密偵(かつての盗賊を手下として重用するもあり)への目配りを怠らず
情けをかけ、十分に活躍させる人物の大きさ。

そうした原作を映像化したのが時代劇ドラマ鬼平犯科帳
その鬼平犯科帳が、この2日と3日の放映を持って終了となった。

この時代劇ドラマは、当初NET(現・テレビ朝日)が1970年9月、
歌舞伎役者の八代目・松本幸四郎を主役に得て放映を開始。
後に、主役は丹波哲郎から萬屋錦之介へと引き継がれた。
1989年7月からはフジテレビが製作して
二代目・中村吉右衛門(八代目・松本幸四郎の次男)を鬼平に据え
現在に至っていました。
(同作品は、テレビのほか映画、舞台、漫画、テレビアニメでも製作。)

レギュラー番組(138本)としての放映が終わってからは
スペシャル番組(12本)として時たま放映されてきましたが、
今回の鬼平犯科帳 THE FINAL を以って製作を終了。
その背景にあるのは、まず吉右衛門丈の年齢にあるようです。
72歳になられ「動きに無理が生じている」と御本人の弁とか。
一方で原作者は既に鬼籍に入られ、新しい原作が無い現実も
新たな製作への障壁となっているのは明らかです。

また、物語りと重要な関わりをもつ密偵を演じる役者の中にも
泉下の人となられた渋い演技をみせた方々がいらっしいます。
相模の彦十 三代目江戸家猫八 青春時代の平蔵宣以は
無頼を気取る風来坊で、その頃から平蔵を知る遊び仲間。
その頃、平蔵は本所の銕(テツ)などと呼ばれ、
彦十が密偵になってからもつい銕っつぁんとやって同心たちに
嗜められることしきりの憎めない爺ぃさま。
同じく密偵のおまさ(梶芽衣子)を子どもの頃から知り、
未だに、まぁちゃんと呼び、おまさも彦十をおじさんと呼び合う仲。
おまさが子供のとき、本所の銕を羨望の眼差しで見つめ、
女になるに従い、男を見る眼に変貌する様を知る少ない存在。
小房の粂八 蟹江敬三 元盗賊で平蔵に捕えられる。
火盗改方の尋問(拷問もあったはず)にも頑として口を割らず
そんな様子を見た平蔵が密偵として取り立てた。
確か平蔵が元盗賊を密偵とした最初の人物。
この密偵ふたりが登場しないことで、話しにポッカリ穴が開いた
そんな喪失感を抱いたのは私だけではないはずです。

原作者の池波正太郎氏は、自作の映像化に伴い
厳しい注文を付けられたということです。
曰く、原作に忠実に描くこと。
間違った解釈や、原作に無い逸話を脚本にすることは
固く禁じられたようです。従って、全ての原作を映像化した後
製作陣は非常に苦労なさったであろうことは想像できます。

池波氏の拘りはストーリーのみに非ず、
映像に登場する料理にも向けられたようです。
小僧として兜町に奉公に出た正太郎少年は、
同年代の奉公人よりも懐具合が格段に良かったようですね。
休みになると銀座に出かけ、贅沢なものを食べていたとか。
その頃、池波氏の舌が鍛えられ本物の味を知ることになった?
シリーズの初期、東京から料理人を呼び寄せ
小道具の料理を作ったというほどの拘りようだったとか・・・
平蔵が与力・同心らと、あるいは密偵たちと膝を崩して
好みの料理を食べるとき、本所の銕に戻った気分で
旨めぇなこりゃ! と相好を崩す様子は、原作者そのものか?

原作者が綴った江戸の光りと闇を、忠実に映像化した製作陣は
賞賛されて然るべきだと思います。
製作の拠点である松竹京都撮影所(現・松竹撮影所)では、
池波氏の仕掛人・藤枝梅安などを原作とする必殺シリーズ
製作(朝日放送と松竹京都撮影所が製作)されている。
その丁寧で綿密な製作姿勢は高く評価されるべきと思います。
先に、日本の民間に伝承されてきた祭りや芸能が
ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
遠い江戸の世界を、より忠実に再現しようとする映像製作者も
表彰されてよいのではないでしょうか?
彼らにしてみれば表彰するなら金をくれ!
否、表彰するなら脚本(ホン)をくれ! と叫ぶでしょう。
テレビ媒体の存在が危うくなってきつつある今、
時代劇ドラマの存立は、より厳しくなっているようです。

若年層のテレビ離れが甚だしいと云われる昨今
超高齢化社会の到来を控え、今ひとたび
オヤジやオバン向けの番組を製作してみては如何でしょうか。
  NHKの紅白歌合戦だって、ヘタに若返りを図ると視聴率が下がりますよ。
  と、これは余談中の余談でしたな。

さて、録画した最後の鬼平犯科帳。
部屋の灯りを消し、江戸の闇に浸かって堪能しましょうかね。

火付盗賊改方 長谷川平蔵である!
神妙に縛に付け!!

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