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2015年9月13日 (日)

家人と居た夏。

夕暮れが俄かに早くなった昨今。
自宅で寛いると、パンパンと破裂音が耳に届いた。
玩具の花火にしては大きい、音の元は何か?
ベランダに出てみるが、こちらに異常はないようだ。
反対側に出て、家並みから僅かに姿を現した花火を認めた。
往く夏を惜しむには時期を逸した花火。

そういえば、花火を観た最後は何年前だったか?
私が花火を観るとは、すなわち撮影すること。
遠くに望む花火は、それはそれで風情があるが
やはり間近で炸裂する花火の迫力をカメラに納めたい。
とはいえ、花火大会が終了した後の混乱に辟易として
その後、名だたる花火大会から遠ざかってしまった。

そんな今年の夏。
思いがけない時、思いがけない場所で花火を観た。
一緒に観たのは思いがけない人。
かれこれ20年来、隣り合って立つことがなかった家人。

まだ薄暮の空にあがる花火を見つめ
家人がひとこと「明るいからキレイじゃないね」。
まだ夕方の明るみを残した空に開いた儚げな火色を観て
家人は何を想ったか・・・
その言葉に、私は無言で応えることしかできなかった。

そのとき、家人は胃の切除手術を受けて4日目。
点滴用スタンドに縋り、漸く一人歩きが出来るようになった。

皮肉なことに、
近年これほど長く、家人と同じ時間を過ごしたことがない。
病室のベッドの上で、手術直後から48時間ほど
麻酔が切れたことで襲われた激痛が和らぎ
無事に手術が終わった安堵感にひたる家人。
しかし、転移への不安は残り、検査結果が出るまで
心の底にわだかまりを抱えて沈黙する家人を見て
私は、安請け合いな慰めの言葉をかけられずにいた。

退院から10日余り、
転移の疑惑が持たれたリンパ節の精密な検査結果が出た。
「転移はなかった」
医師の言葉に心から安堵したことだろう。

日常生活に戻ったいまも、手術の影響を引き摺っている。
胃を3分の1残せ、全摘出とは雲泥の差があるものの
完全復調までは半年、一年という期間を要するようだ。

ただひとつ
永年共に生きてきた人間が
理不尽にも死の淵に引き摺り込まれる様を見ないで済んだ。
そんな想いだけが残った今年の夏である。

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コメント

例えとは言え、
>20年・・・
これからの時間を、「ご一緒に!」
と願うばかりです。

投稿: 川崎アップル | 2015年9月13日 (日) 22時47分

川崎アップルさん
どう考えても、この先20年はムリです!
病人の我が儘で、尻にムチを入れられる毎日。
本人は所謂「5年後の生存率」から解放されましたが
私は、この5年ほどが限界かと観念しております。
南無・・・

投稿: kattu | 2015年9月13日 (日) 23時46分

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