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2008年4月 2日 (水)

町医者

3月31日、近くの開業医が閉鎖された。
奥様が受付と医療事務を担当され、ご夫婦だけで
経営なさっている診療所だ。
何年も前から噂されていたが、遂にその時が来た。

地元の方で、開業は昭和39年という。
我が家が、この地に越してから24年になるが、
ここの先生には随分お世話になった。
内科と小児科を兼ねているので、ウチの子供たちは
乳児期を過ぎた頃から診ていただいている。

歩いて1分の距離がありがたい。
行くと必ず「どうしました?」と訊かれる。
凛とした口調はいつまでも変わらなかった。
下手に「風邪をひきました」などと言おうものなら
「風邪かどうかは私が診断する」などと叱られそうな方だ。

だからといって、怖い先生かといえば、そうでもなさそうである。
黒澤明監督の「赤ひげ」ではないが、かの先生を黒澤映画の
出演者に当てはめるとすれば、誰が適役か。
世界のミフネや志村喬ではなく、間違いなく宮口精二だろう。
硬質に秘めた柔軟さとでも言おうか、そんな人柄である。

たまたま、息子が風邪をひいて最後の日に診察を受けて来た。
処方された薬袋に、医院閉鎖の挨拶文を入れてあるところなど、
正に、この先生らしい律儀な一面をのぞかせている。

よしんば、もう少し早く知ったとして、廃止されるローカル線や
老舗旅館でもあるまいし、閉鎖を惜しんだ連中がドヤドヤと
押し掛ける筋合いのものでもない。

風の噂では、先生自身の高齢が原因という。
ご本人の挨拶文には40数年、大過なく過ごせた感謝の言葉が
添えられていた。
また、高度医療や大規模病院の今後を託す一節もあった。
いずれにせよ、町医者としての使命を無事全うされた充実感で
聴診器を外されたのだろうと想われる最後である。

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